13.ミラクルフルーツの贈り物

一行は、森の中の少し開けた場所にたどり着いた。

そこは太陽の光が差し込み、周囲の暗闇とは対照的に、明るく華やかな雰囲気だった。

緒方はその手前で立ち止まり、辺りを見回していた。

場所に着いたらしい、と脇田は思った。

雑草はきれいに刈り取られていて、その四方には木の橋や階段が設けられている。

そこが彼らの生活の拠点であることが、一目にしてわかった。

「緒方さん、どんな塩梅だったかの」

しゃがれ声が、森の奥から聞こえた。

「ああ、無事でしたよ。どうして隠れているんですかぁ」

「べつに隠れとりはせんがの。ただ、奥にひっこんでるだけじゃ」

「結局、隠れているんじゃないですか。 なにも長老までひっこむことないでしょう。さあ、彼らに会ってください」

どうやら、とてもシャイな種族であるらしかった。

森の奥から、人が近づく気配がした。

一人の年老いた小人が、広場にちょこんと姿を現した。

白い布の袋をかぶったような格好をしていて、その姿の可愛いこと、可愛いこと。

マリコと幸夫が思わず吹き出してしまったくらいだ。

「だから、いやだと言ったんじゃ。 どうせ笑うに決まっておる」

老人はそう言ってふてくされた。

しかし皺だらけのその顔には、既に受容的なものが浮かんでいた。

彼は一行に手招きをした。

脇田たちはそれについていった。

「あの二人はどうしました」

緒方が老人に訊いた。

「さぁ、まだ帰っていないようじゃが」

若い夫婦のことを話しているようだった。

横を歩いている緒方と比べると、背たけが腰のあたりまでしかない。

幸夫よりも低いくらいだった。

「疲れたじゃろ。ゆっくり休むがいい」

広場を抜けると、木で組み立てられた建物があった。

「ついこないだ、完成したばかりなんです」

扉を開けながら、緒方が言った。

「貴方たちが作ったんですか」

「ええ、村人に手伝ってもらってなんとか」

「わしらにはこんなに大きな家は必要ないんじゃが、一緒に生活していると踏んづけられたりして、たまったもんじゃないからな」

長老が笑いながら部屋に入って行った。

脇田もそれに続いた。

その夜、四人はカプセルから持ってきた食料を平らげ、緒方たちが用意したベッドですぐに寝入ってしまった。

緊張から解放されたためもあって、朝まで目を覚ますことなく熟睡した。

翌朝、脇田は目を覚ましたときに、不思議な匂いに気づいた。

「みんな、起きて!何かいい匂いがするぞ!」

脇田は急いでカプセルから飛び出し、仲間たちに叫んだ。

「なに、なに?」

「どうしたんだ?」

「なにがあったんだ?」

マリコと幸夫と緒方が眠そうな顔でカプセルから出てきた。

「あれを見てみな!」

脇田は指差した。

広場の中央に、大きな鍋が置かれていた。

その鍋からは、甘い香りが立ちのぼっていた。

「な、なんだあれは!」

「スープだ!」

「まさか、この惑星にもスープがあるのか!」

三人は驚きと興味で声を上げた。

長老も駆けつけてきた。

「お前たち、あれを見たか」

「はい、見ました。あれはなんですか」

「わしらの特別なごちそうじゃ。お前たちに振る舞ってやろうと思ってな」

「特別なごちそう?」

「そうじゃ。この惑星の果物や野菜やハチミツを使って作った、甘いスープじゃ」

「甘いスープ?」

「そうじゃ。お前たちは甘いものが好きだろう。わしらもそうじゃ。だから、これはお互いに喜ばれると思ってな」


「そうですか。それは嬉しいです!」

「ほんとに?」

「もちろんじゃ。さあ、食べてみようぞ」

長老は一行を広場に招いた。

脇田は鍋に近づいた。

スープは色とりどりの果物や野菜で満たされていた。

その中には、見たこともないような形や色のものもあった。

「これはなんですか」

脇田は長老に訊いた。

「これは、ミラクルフルーツという甘い果物じゃ。食べると、すべての疲れが取れてゆく」

「本当ですか!それはすごいです!」

「じゃあ、試してみるか」

長老はミラクルフルーツを脇田に渡した。

脇田はそれを口に入れた。

すると、驚くべきことに、舌が甘い刺激に包まれた。

「うわぁ、本当だ!すごい甘い!」

「ほら、言ったろう」

「これはすごいですね。他のものも食べてみたいです」

「どうぞ、遠慮しないで食べてくれ」

脇田はスープをすくって飲んだ。

それは、まるで果物のジュースのように甘くておいしかった。

「おいしい!」

「そうか、よかった」

長老は笑顔で子供たちの驚きを見守った。

脇田は子供たちにもスープを勧めた。

「みんな、食べてみて!すごくおいしいぞ!」

マリコとユキオとレオもスープを飲んでみた。

すると、彼らも同じように感動した。

「本当!」

「うそだろ!」

「やったー!」

六人はスープを食べながら、笑顔で会話した。

長老も笑顔で祝福した。

「よかったじゃないか。奇跡のフルーツとの出会いに、おめでとう」

「ありがとうございます。長老」

側で脇田たちを見守っていた緒方が礼を言った。

「いや、こちらこそ。お前たちのおかげで、わしらも新しいことをたくさん学んだ。感謝しておる」

長老も緒方に言った。

「いえいえ、私たちも、長老たちのおかげで、この惑星のことを知ることができました。本当にありがとうございました」

「いや、まだお礼を言うのは早い。お前たちはまだ、この惑星を出るまでが冒険なんじゃぞ」

「そうですね。でも、いつか帰れると思います。それを信じて頑張ります」

「信じて頑張れ。でも、それが本当になったら、うれしいじゃろう」

「はい、とてもうれしいです」

「それじゃあ、今日は特別に、わしらの村の夜宴に招待するぞ。お前たちに、この惑星の最高の景色を見せてやる」

「本当ですか!それは嬉しいです!」

「ほんとに?」

子供たちの表情が色めき立った。

「もちろんじゃ。さあ、宴の準備を見に行こうぞ」

長老は一行を引き連れて、丘の上へと歩いていった。

脇田は後ろを振り返った。

海岸線が見え、オレンジ色のカプセルが小さく見えている。

カプセルを指さして子供たちに教えた。

長老の後を歩きながら、子供たちもカプセルが見えなくなるまで、目を離さなかった。

 

つづく

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